「ブラッサム」墓を発く(あばく)とは?宇野千代の小説あらすじ・原稿料366円
朝ドラ「ブラッサム」【第7週】「あばく、書く」では、ヒロインの珠(石橋静河)が、小説「墓を発く(はかをあばく)」の執筆に取り組みます。
「墓を発く」とは、どんな意味で、どんな内容の小説なのでしょうか?
実は「墓を発く」は、珠のモデル・宇野千代が実際に書いた小説。1922年(大正11年)に文芸誌「中央公論」に掲載され、作家として本格的に歩み出すきっかけとなった作品です。
小説のあらすじと題名の意味、宇野千代が受け取った原稿料366円の今の価値、そして現在、この小説を読む方法を解説します。
「ブラッサム」墓を発く(あばく)とは?珠が執筆する小説
「墓を発く」の「発く」は「あばく」と読み、墓を掘り返すことを意味します。
「ブラッサム」【第7週】では、札幌で暮らす珠が、故郷・岩国で見聞きした出来事をもとに「墓を発く」を書き上げ、東京の文芸雑誌「首都公論」の編集長・黒崎大三郎(遠藤憲一)へ原稿を送る展開に。
この「墓を発く」は、ドラマの架空の作品ではありません。宇野千代が実際に執筆した小説で、題名もそのまま使われています。
ドラマに登場する「首都公論」と黒崎大三郎のモデルと考えられる「中央公論」と滝田樗陰については、以下の記事で解説しています。
宇野千代「墓を発く」のあらすじと題名の意味|学校の不正と家族の悲劇
宇野千代の小説「墓を発く」は、若い女性教師・吉子(よしこ)を主人公に、学校や社会の不公平、家族の悲劇を描いた作品です。
物語は前半と後半で、描かれるものが大きく変わります。
前半|学校や村にはびこる理不尽
物語の前半で描かれるのは、吉子が勤める学校での理不尽な出来事。
学校の成績を気にする校長は、勉強の苦手な児童・久太を試験に参加させないようにします。久太は学校が好きでしたが、学校側の都合で学ぶ機会を奪われてしまうのです。
ほかにも、教師の立場を利用して商店に酒代を求める人物や、不当な扱いを受ける貧しい小作人(地主から土地を借りて耕す農民)の姿も。
当時の学校教育や地域社会にあった不公平な仕組みが、前半の大きなテーマとなっています。
後半|「墓を発く」は母親への深い恨み
後半では、吉子自身の家族が抱えてきた悲しい過去が明らかになります。
兄・国吉が病に倒れたと知らせを受けた吉子は、兄のもとへ駆けつけ、姉・お絹と再会。そこで、姉が長年抱え続けてきた母親への激しい恨みを知ることになるのです。
お絹と国吉は幼いころ、母親に置き去りにされ、その後は厳しい暮らしを送ってきました。お絹は母親を許すことができず、墓を掘り返して骨を踏みつけてやりたいとまで考えていたのです。
つまり「墓を発く」という題名には、亡くなってもなお許せない母親への怒りや憎しみが込められています。
ただし、物語の中で実際に墓を掘り返すわけではありません。学校や社会の理不尽さを描いてきた物語は、最後に家族の奥深くに残された傷へとつながっていきます。
宇野千代が「墓を発く」を発表した史実|原稿料366円は現在いくら?
宇野千代(出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」)
宇野千代にとって「墓を発く」は、作家として生きていく道を開いた一作でした。
返事を待ちきれず、札幌から中央公論社へ
宇野千代は1920年(大正9年)、夫・藤村忠が北海道拓殖銀行に勤めることになり、札幌へ移り住みました。
札幌での暮らしの中、1921年(大正10年)には短編小説「脂粉の顔(しふんのかお)」が「時事新報」の懸賞小説で一等に入選。賞金200円を手にします。
続けて書き上げたのが、原稿用紙120枚におよぶ「墓を発く」。千代はこの原稿を、東京の「中央公論」主幹(編集の最高責任者)・滝田樗陰(たきた・ちょいん)に送りました。
ところが、待てど暮らせど返事がありません。採用されたのか確かめるため、千代は1922年(大正11年)4月、24歳のときに札幌から上京し、中央公論社を直接訪ねます。
すると、「墓を発く」はすでに「中央公論」1922年5月号への掲載が決まっており、千代は原稿料として366円を受け取ったのです。
当時の千代は夫の姓を名乗っており、「墓を発く」は「藤村千代」の名前で発表されています。
大金を手にした千代は、夫の待つ札幌には戻らず、故郷の岩国(現在の山口県岩国市)へ帰りました。ここから、小説家として生きる道が本格的に始まっていきます。
また、宇野千代が札幌へ移住した理由と、小説家デビューの経緯については、以下の記事で解説しています。
原稿料366円は大卒初任給で比べると約160万〜192万円
大正時代後半の大卒サラリーマンの初任給は、月50〜60円ほど。原稿料366円は、その約6〜7か月分にあたります。
2025年(令和7年)の大卒初任給は月額約26万2,300円。現在の金額に置きかえると、以下の通りです。
366円 ÷ 60円 × 26万2,300円 = 約160万円
366円 ÷ 50円 × 26万2,300円 = 約192万円
初任給で比べると、原稿料366円は現在の約160万〜192万円に相当します。
ただし、物価も給料の水準も今とは大きく違うため、比べる基準によって金額には幅があります。それでも、若い会社員の給料半年分以上にあたる大金だったことに変わりはありません。
大正時代のお金の価値については、珠と保が頼母子講で当てた1,000円を、企業物価指数・米の価格・大卒初任給の3つの基準で換算した以下の記事でも解説しています。
宇野千代「墓を発く」はどこで読める?岩波文庫・無料公開も
宇野千代の「墓を発く」は、現在も書籍や国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。
2019年(令和元年)に発売された岩波文庫「老女マノン・脂粉の顔 他四篇」には、宇野千代の初期作品6篇が収録されています。
【岩波文庫の収録作品】
- 脂粉の顔
- 墓を発く
- 巷の雑音
- 三千代の嫁入
- ランプ明るく
- 老女マノン
「墓を発く」は15~81ページに収録されています。
また、1924年(大正13年)に金星堂から刊行された作品集「幸福」にも収録。
この「幸福」は国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されており、無料で原作を読むことができます。
※「墓を発く」は144~178コマ(書籍281~349ページ)に収録されています。
【出典・参考資料】
- 山口県観光サイト「作家・宇野千代とは?」
- 宇野千代顕彰会「宇野千代私製年譜」
- 国立国会図書館レファレンス協同データベース「墓を発く」の所在
- 国立国会図書館サーチ「老女マノン・脂粉の顔 他四篇」
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」
- 宇野千代「墓を発く」(「中央公論」1922年5月号)
まとめ
朝ドラ「ブラッサム」に登場する「墓を発く(はかをあばく)」は、珠のモデル・宇野千代が1922年(大正11年)に発表した実在の小説です。
学校や社会の不公平と家族の悲劇を描いた作品で、題名には母親への深い恨みが込められています。
千代はこの作品の「中央公論」掲載で、大卒初任給の半年分以上にあたる原稿料366円を手にし、作家として本格的に歩み始めました。
他にも「ブラッサム」のキャスト・スタッフ一覧は、以下でまとめています。
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