2025年後期放送のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロイン・松野トキは、「髙石あかり」さんが演じます。ドラマのあらすじは、以下の通りです。
外国人教師「小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)」と、その妻「セツ」をモデルにしたオリジナル作品。
舞台は明治時代の松江。没落士族の娘・松野トキ(髙石あかり)は、怪談を愛する外国人教師・ヘブン(トミー・バストウ)と出会い、心を通わせていく。
言葉も文化も異なるふたりは、怪談に込められた人々の想いを通じて、互いを支え合いながら、目には見えない“人の情”に寄り添って生きていく。
「ばけばけ」ヒロイン・松野家の養女という設定です。物語の舞台である明治時代の松江で、没落士族の娘であるトキは松野家に育てられますが、実は生まれは雨清水家という生家が存在します。
これは、モデルとなった「小泉セツ」さんの史実に基づいたエピソードです。セツさんが稲垣家の養女となり、生家である小泉家とどのような関係にあったのか解説します。
【ドラマ設定】松野トキは雨清水家の生まれ、養女として松野家へ

「ばけばけ」の劇中でヒロイン松野トキは、生まれて間もなく雨清水家から松野家へ養女に出された娘として描かれています。
松野トキの「松野家」「雨清水家」という名称はフィクションですが、これは史実の稲垣家(養家)と小泉家(生家)に相当します。実在モデル「小泉セツ」さんも、生後まもなく親戚筋の稲垣家に養女に迎えられた人物です。
ドラマでは名前が変更されていますが、トキの設定は「小泉セツ」さんの現実の生い立ちを反映させています。
モデル・小泉セツの生家と養家|小泉家と稲垣家の関係を史実から解説

「小泉セツ」さんの人生を語る上で欠かせないのが、生家の小泉家と養家となった稲垣家の存在です。
生まれてすぐに親戚の家へ養女に出されるという特別な運命が、彼女の歩みに大きな影響を与えました。
小泉セツはなぜ養女に?生まれてすぐ稲垣家に迎えられた理由
小泉セツさんは慶応4年(1868年)2月4日、松江藩士の家に次女として誕生します。父・小泉湊は松江藩の武士、母チエは藩の家老職・塩見家の出身という名門の生まれです。
しかし、セツさんは実の両親に育てられることはなく、生後7日目に親戚である稲垣金十郎・トミ夫妻の養女となりました。
稲垣家は小泉家と遠い親戚関係にあり、夫妻には子供がいなかったため、「小泉家に次の子供が生まれたら稲垣家の養子にする」という約束が事前に交わされてました。
こうしてセツさんは、生まれてすぐ生家は小泉家、育ちは稲垣家の娘という特別な運命を背負いました。
さらに注目すべきは小泉家と稲垣家の家格の違いです。セツさんの生家・小泉家は松江藩で代々仕え、禄高300石を有する「上士」と呼ばれる由緒ある上級武士の家柄でした
一方、養家として迎えられた稲垣家は禄高100石の「並士」で、小泉家より格下の武士の家系です。この家格の差ゆえに、養父・金十郎と養母・トミは自分たちより高い家柄から来たセツさんを「お嬢(オジョ)」と呼んで大切に育てたと言われます
幼いセツさんは血のつながりこそ無いものの、稲垣家で我が子同然に深い愛情を注がれて成長しました。
名門だった小泉家と武士の没落による苦難
セツさんが養女となった時代背景には、明治維新による武士階級の没落があります。1868年の出生当時、日本は幕藩体制から近代国家へと大きく転換する最中で、多くの武士たちは特権や収入源を失い零落していきました。
セツさんの生家である小泉家も、養家となった稲垣家も例外ではなく、この激動の波に翻弄されて生活が困窮していきます
維新後、小泉家の父・湊は士族として生き残るために織物製造の事業(織物会社)を興し、家計を支えようとしました
セツさんは成績優秀だったにもかかわらず、11歳で進学をあきらめ、生家・小泉家の織物会社で働き始めます。幼いながらも機織りに従事し、家業を支える中で、逞しい労働力として成長していきました。
小泉家・稲垣家ともに上級武家の誇りはあっても、明治の新時代では生活に苦労する日々を送らざるを得なかったのです。
そんな中、セツさんは18歳で最初の結婚を経験します。稲垣家が婿養子として迎え入れた元士族の青年・前田為二と結婚し、稲垣家の家督を継ぎます。
しかし、この結婚生活は長く続きません。夫となった前田氏は稲垣家の極度の生活苦に耐えられず、わずか1年ほどで家を出奔(逃げて行方不明)してしまいます。セツさんは22歳で正式に離婚し、生家である小泉家に戻る決断をしました。
若くして経験した結婚と離別は、セツさんにとって大きな試練であり、同時に当時の武士階級が直面していた深刻な経済状況を象徴する出来事でもありました。
小泉八雲との出会いと結婚、そして生涯にわたり養父母と生家を支えたセツ
その後、小泉セツさんは故郷松江で外国人英語教師ラフカディオ・ハーン(のちの小泉八雲)と出会い、再婚して新たな人生を歩み始めます。
この結婚によってセツさんは八雲と共に各地を移り住みながら生活を共にしますが、その際には老いた養父母(稲垣金十郎・トミ)を連れて熊本・神戸・東京へ移り住み、生涯にわたって面倒を見続けました。
さらに、生家である小泉家の親族とも縁を絶やさず、困窮した家計を支え続けています。
血のつながりを越えて養父母を大切にし、生家への思いも持ち続けたセツさん。その姿には、恩義と家族への深い情愛がにじんでいます。
また、朝ドラ「ばけばけ」で「髙石あかり」さんが演じる松野トキの実在モデル「小泉セツ」さんの生涯については、以下の記事で詳細を解説しています。

まとめ

朝ドラ「ばけばけ」ヒロイン・松野トキのモデルである「小泉セツ」さんは、生まれながらに親戚の稲垣家へ養女に出されました。
名門・小泉家の娘でありながら、明治維新後の混乱で養家・生家ともども困窮し、若くして結婚と離別を経験するといった波乱の前半生を送ります。
ドラマ中では松野家(=稲垣家)と雨清水家(=小泉家)という架空の名前になっていますが、小泉家・稲垣家それぞれの「武士の没落」と苦難は、そのまま「ばけばけ」の物語でも描かれます。
他にも「ばけばけ」のキャスト・スタッフ一覧は、以下でまとめています。
